ウサギの上顎の切歯は二重になっており、重歯目と呼ばれるゆえんになっています。
また、切歯・臼歯ともに一生延び続けます。
ウサギはこの伸び続ける歯を草木を咀嚼することで削り、一定の長さに保っています。
野生のウサギは、繊維が長く豊富な草を食べているため、臼歯による咀嚼運動が良く行われています。
その一方で、飼育下のウサギは繊維分の少ないペレットが主食になっている為、咀嚼運動が不十分な状態に陥りやすくなっています。 その結果として、不正咬合が起こりやすくなります。
【切歯の不正咬合】
歯が異常に伸びすぎていたり、湾曲していたりする様子が外観から簡単に発見することが出来るので、ご家庭での毎日の観察が、
早期発見、早期治療の重要なポイントになります(写真1)。
写真1.上下切歯の過長
【臼歯の不正咬合】
口の中はなかなか見れないため、チェックすることは非常に困難です。
臼歯の不正咬合のほとんどは、下顎の歯は舌に向かって内側に伸び(写真2)、
上顎の歯は頬に向かって外側に伸びます(写真3)。
歯が舌や頬に突き刺ささり、出血していたり、潰瘍を起こしているウサギもいます(写真4)。
歯が頬や舌にあたっていると痛くて食事ができなくなるため、食べることをやめてしまいます。
急に食欲が落ちた(食べたそうにしているが食べない、エサの前でじっとうつむいている)、よだれを出す(顎、前足の内側がぬれていることが多いです)、よく歯ぎしりをする等の症状が見られたらサインです。
中には我慢強くて、たとえ歯が伸びて頬に突き刺さっていても、食欲が落ちないうさぎもいます。
歯ぎしり、よだれ等見られるようになったら早めに動物病院で診察してもらいましょう。
写真2.下顎臼歯の過長
(内側に伸びて舌を傷つけている
写真3.上顎臼歯の過長
(外側に伸びて頬の内側を傷つけている
写真4.臼歯の過長によって傷つけられた舌
ウサギの歯は一生伸びつづけるので、一度不正咬合がおきると正常な状態に戻すことは困難です。
そのため、定期的に歯を削らなくてはなりません。
この疾患の一番大事なことは不正咬合を起こさせないようにすること、つまり予防と、早期発見、早期治療です。
予防の為には普段からラビットフードは少なくし、牧草や野菜を主食にするようにしましょう。
牧草や野菜を食べることで、臼歯での咀嚼運動が活発になり、歯の磨耗が促されます。
牧草は乾燥牧草(チモシー、アルファルファ) など、野菜は緑黄色野菜が良いでしょう。
ただし、ほうれん草は蓚酸が強く、骨からカルシウムを脱灰させるので避けましょう。
また、小松菜のようにカルシウムの豊富なものは、高カルシウム結晶、結石を起こしやすくなるため、控えたほうが良いと思います。
もし手に入るようでしたら、生牧草を与えると歯のためだけでなく、消化管の機能を調節する効果、ウェイトコントロール、高カルシウム尿症の予防にもなります。
餌を変えても、一度歪んでしまった歯列の矯正は困難です。しかし、食生活の改善によって動物病院で削る処置の間隔を少しでも伸ばすことができます。
臼歯を削る処置は原則無麻酔で行いますが、暴れるウサギでは難しいのが実情で、全身麻酔下で処置する事もあります。
無麻酔で行う場合も、麻酔下で行う場合も、どちらもリスクがありますので、少しでも削る間隔をあけられる様、食生活で予防していくことはとても大切なことです。
最近ペットとして飼われているウサギのほとんどはミニウサギです。ミニウサギは体を小さく改良してあるために、顎も小さくなっています。
そのため、どうしても歯並びが悪くなりやすい状態にあるので、適切なえさをあげていても顎の構造からどうしても不正咬合になってしまうウサギもいます。
いずれにしても、適切な食生活と、動物病院での定期的な検診が早期発見、重症化させないために大切になります。